アップルの創始者、Macintoshを創り、iMacを創り、iPodを、iPhoneを、iPadを創った男。
カリスマ経営者、スティーブ・ジョブズのプレゼンを研究した本、「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン」という本を今、読んでいる。著者はカーマイン・ガロというプレゼンのコーチ。
人を引きつけ、巻き込むジョブズのプレゼンの一番の秘密は、彼の情熱の熱さだ。
この本から記憶しておきたい言葉を引用しよう。
日経BP社 「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン ~人々を惹きつける18の法則」カーマイン・ガロより引用
<引用開始>
ジョブズのプレゼンテーションをよく見ると、製品を売ろうとしていないことがわかる。ジョブズが売ろうとしているのは、よりよい未来という夢なのだ。iPhoneを発売した2007年、アップルにとってiPhoneが重要である理由をCNBCのレポーター、ジム・ゴールドマンにたずねられたジョブズは、株主価値や市場シェアには触れず、ただ、優れた体験というビジョンを語った。
「iPhoneというのは電話産業を根底から変えるんじゃないかと思っている。電話をかけたり連絡を取ったりという面で、今までにないパワフルな何かを我々に与えてくれるんじゃないかと。iPhoneには、ベストなiPodが組み込まれている。ポケットに入る大きさなのに、ホントのブラウザーでインターネットが使える、ホントの電子メールが使える。グーグルマップも世界一優れたやつが組み込んである。iPhoneなら、この全部をポケットに入れて持ち歩ける。しかも、10倍も使いやすいんだ」
スティーブ・ジョブズの「奥義」は「話し方」だとデウッチマンは言う。では、どのような話し方があれほどの引力を発揮しているのだろうか。ジョブズが語るとき、そこには情熱があり、勢いがあり、活気がある。その情熱がどこから来るのか、ジョブズ自身が語った言葉がある。
「大好きなことを見つけてほしい。仕事というのは人生のかなり大きな部分を占めるわけだけど、本当に満足するには、すごい仕事だと信じることをするしか方法がない。そして、すごい仕事をするには、自分がすることを大好きになるしか方法がない。まだ見つからないなら、探し続けてほしい。あきらめちゃいけない」
人は一人ひとり、人生の使命が異なる。ジョブズのように、若くして自分の使命を自覚する人もいる。周囲の目ばかりが気になり、いつまでたってもつかめない人もいる。お金のために金儲けをすれば、まず間違いなく人生の使命を見失う。
「情熱がない人は元気がない。元気がない人は何も手に入らない」―――ドナルド・トランプの言葉である。すべては情熱から始まる。情熱をもっていみのある世界を描けば、顧客や社員も一緒に作ることができる世界を描けば、聞き手の心を動かすことができる。
リーダーは未来というものを明確にイメージしているとバッキンガムは言う。
「リーダーとは未来に魅せられた人をいう。変化を求めて動かずにはいられない、事態の進展がじれったい、現状に大きな不満を持っている―――こういう人が、いや、こういう人だけがリーダーである」
「リーダーが現状に満足することはない。よりよい未来が見えているだけに『今の姿』と『あり得る姿』のギャップにいてもたってもいられず、前へ前へと進んでしまうからだ。これを人はリーダーシップという」
ジョブズも、自分が描いたビジョンに突き動かされ、いてもたってもいられず、前へ前へと進んだのだろう。ジョブズは、世界中の人がひとり1台、アップルのコンピュータを持つという夢をジョン・スカリーに語った。ジョブズがすごいのはそこで止まらなかったこと。聞く耳のある人、みんなにその夢を語って歩いたことだ。
伝道者というものは、世の中を救いたいという熱意によって新しい体験を生み出す。「スティーブの話し方は、いつも、躍動的で圧倒的だった」スカリーは実例を挙げる。
「僕らはコンピューターの使い方を変えたいんだ。コンピューターの使い方を一新するすっごいアイデアをたくさん持っている。アップルは世界一重要なコンピューターの会社になるんだ。IBMなんか比べものにならないくらい重要に」
ジョブズはコンピューターが作りたかったわけではない。人の可能性を束縛から解放するツールを作ること―――それが、ジョブズの胸で燃えつづける欲求である。
「デザインというのはおもしろい言葉だ。外観のことだと思う人もいる。本当は、もっと深いもの、その製品がどのように働くかということなんだ。マックのデザインというのは、単にどのように見えるかの問題ではない。もちろん、そういう面もあるけどね。でも一番大事なのは、どのように働くかということだ。いいデザインをしようと思えば、まず真に理解する必要がある。それが何なのか、心でつかむ必要があるんだ。そして、何かを真に理解するためには、全身全霊で打ち込む必要がある。かんでかんでかみ続けるんだ。すぐに飲み込んじゃいけない。でも、そこまでのことをする人はめったにいないんだよね」
(1997年「シンク・ディファレント」というアップルの広告)
アルベルト・アインシュタイン、マーティン・ルーサー・キング、リチャード・ブランソン、ジョン・レノン、アメリア・イアハート、モハメド・アリ、ルシル・ボール、ボブ・ディランなど、因習や既成概念を打破した人々が白黒写真で登場する。ナレーションは俳優のリチャード・ドレイファスである。
クレージーな人たちに乾杯。はみ出し者。反逆者。厄介者。変わり者。ものごとが世間と違って見える人。ルールなどわずらわしいだけの人。現状など気にもしない人。彼らを引き合いに出すことはできる。否定することもできる。たたえることもけなすこともできる。
できないのはおそらくただひとつ―――彼らを無視すること。なぜなら彼らは物事を変える人だから。人類を前に進める人だから。彼らをおかしいと評する人もいるけれど、我々はそこに天才の姿を見る。なぜなら、世界を変えられると信じるほどおかしな人こそ、本当に世界を変える人なのだから。
<引用終了>
いちいち、ごもっともである。スティーブ・ジョブズという男はやはりすごい男だ。
なにがすごいって信じる力がすごい。「世界を変える」って信じてる男。
もちろん、変えることが目的ではない。どうしてもやりたいことがあるってことだ。技術を使って、人間の生活を楽しく、シンプルなものにするということだろう。iPodも創ったけれど、きっと彼はコンピュータが大好きなんだろうな。ジョブズにとって、iPodは音楽を楽しむことに特化した、いちばん操作が簡単な、いちばんシンプルなコンピュータなんじゃないのかな。
コンピュータを誰でも使えるシンプルな道具にする。それによって生活を変える。もっと自由に。もっと楽しく。それは可能だ。そのことについての熱い情熱。ジョウネツのカタマリ。
でも、この本自体は、それを讃える本ではない。ジョブズの伝える力をひもとくことを目的とした本である。「聴衆を魅了することにかけては世界一のコミュニケーター」としてのジョブズに焦点をあてている。
このコミュニケーション能力がなければ、ただの妄想家で終わったかもしれない。
人を巻き込む力。人を惹きつける力。それは確かに自身が強い力を持っていなければ得られない。自分の夢を強く信じ、揺るぎない自分を確立した上で、更にその先に他者へと向かう。独りよがりではなく。巻き込むような形で。それは自分の言葉や態度に対する他者の受け止め方についての敏感な感受性なくしてはできないことだと思う。ノンバーバル コミュニケーションも含めて。
それは何を言ったらうけ、何を言ったらうけないかを瞬時に把握する能力であろうかと思う。その積み重ねがさらにその技を洗練させていく。
そしてもうひとつ。「かんでかんでかみ続ける」という言葉。ことの本質を深く深く追求し続けることを言っているのだと思う。ものごとを表面的に捉えるのではなく、その本質を求めて深く考え抜くこと。しつこい性格でなければできないことだ。粘り強くなければできない。
最近のジョブズの容貌が、禅の修行僧にも似ているように感じるのは私だけだろうか。強く、果てしなく求め続ける求道者のように。
空気を読むこと自体がいけない訳ではない。しかし、自分が何をしたいのか、それをはっきりと自分自身でつかみとる前にそれをしてはいけないのだ。自分自身を知ることは大切なこと。他者とのつながりを考えるのはその後でなければいけない。別に同時でもいいけどさ。自分を大切にしない人には、他人を大切にすることもできないんじゃないかなと思う。
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