3月1日からGoogleはGmailやYouTube、Google+、Googleカレンダーなど、Googleの提供する様々なサービスにおいてバラバラに定めていたプライバシーポリシーを統合した。どんなサービスを利用する際も、同じプライバシーポリシーが適用されることになる。
これにあわせて、様々なサービス間での登録情報を同一個人の情報として一元的に扱う。同じ人物が異なるサービスを使う際に、これまでは別々のユーザとしてサービスごとに個別に認識していたやり方を変更し、これからは同じユーザとして識別し、それぞれのサービスでの利用履歴等の情報を関連付けし一元的に利用することになる。
このプライバシーポリシーの変更により、Googleが個人情報の管理を強化することになるとしてアメリカやヨーロッパでは批判の声があがっている。
グーグルの新ポリシー導入、EU司法担当委員が批判--仏データ保護当局の停止要請を無視で CNET Japan
日本国内でも総務省と経済産業省が連名で日本法人であるグーグル株式会社に対して法令遵守と利用者へのわかりやすい説明を求める通知を文書で行った。だがまあ、この内容は「法律守れよ」というあたり前の話なんで特別に影響はないだろうと思う。
総務省と経産省、Googleの新プライバシーポリシーに対し「法令遵守が重要」 ケータイWatch
さて、これのどこが問題なのだろう?例えば、Gmailの中でよく使われる言葉やYouTubeでの視聴履歴などの情報が、Webの検索結果を表示する際の表示順番を変えるといったパーソナライズに利用される。或いは広告を表示する際のパーソナライズ化に。これはユーザ個人が識別されることによる。それはつまりGoogleにログインした状態でサービスを利用した場合にその履歴がGoogleにより利用されるということ。
Web検索やYouTubeは別にログインしなくても使えるし、実際ログインなしで使っている人がほとんどだろう。一方、GmailやGoogle+といったサービスはその性質上ログインが不可欠だ。YouTubeも動画をアップするためにはログインが必要だし、一部のセクシャルな動画を見るためには(おそらく年齢制限のために)ログインが必要だ。
注意が必要なのは、例えば一度ログインしてGoogle+を利用した場合、ログアウトせずにそのままで新たなページを開いてWeb検索やYouTube視聴を行うと、それはログイン状態での行動になることだ。YouTubeでログインしなくても、ログイン状態になるので、ユーザはそれを意識しないケースが多いだろう。ログインの自覚なしでログインしていることになる。
さて、それでどういうことが起きるかというと、Gmailで車やゲームについて頻繁に話題にしているユーザに対しては、それらの商品の広告が表示される率が高くなるということだ。化粧品やファッションの広告の代わりに。そのこと自体はWebでは既に行われていることだ。Yahooなどのサイトで特定のカテゴリーの視聴履歴に基づいて表示する広告を変えるのは行動ターゲティング広告と呼ばれる。
YouTubeでエッチな動画ばかり見ていると、Googleの別なサービスのサイトにそっち系の広告が躍ることになるかもしれない。Googleは広告媒体としてのブランドイメージを守るために大人のおもちゃとかヘンな出会い系サイトとかの広告は引き受けないから、そんな広告がGoogle画面に出てくることはないだろうが、ランジェリーの広告ならありえるかな?
しかし似たようなことなら例えばAmazonのサイトについて話題になったことがある。ログインした状態でエッチな写真集やビデオの商品情報を見てると、翌日会社のパソコンでAmazonにログインした時に画面上に過去の閲覧履歴が表示されて困るというような話しだ。ログインしていなくても同じパソコンを使っていればクッキーによって同様な事態が生じるので家族でパソコンを共有している場合はちょっと困ったことになるかも。
行動ターゲティングに話しを戻すと、Yahooなら許されるがGoogleがそれをやると批判されるというのはちょっとおかしなことだと思う。更に、Yahooの場合はもともとWebメールやブログは同じユーザアカウントにより提供されていてユーザ情報はサービス間で共有されている。今はサービスを止めてしまったが、以前はYahoo DaysというSNSサービスはブログと連係していた。Yahoo側からはどのサービスを利用していても同じユーザだと識別されていたわけだ。
そしてどの道、ネットでの行動は履歴が残るものなのだ。そして時代は否応もなくオープン化の方向へ向かう。データは絶え間なく蓄積され続ける。それをどう使うかが問題なのだ。私のようなユーザに化粧品の広告を何度見せても私がそれを買うことはほとんどない。広告の無駄打ちだ。だったら別の広告を見せた方がましだ。どっちみち私はあんまり広告で購買行動を起こすことは滅多にないけれども。でも、本の広告だったら購入につながることはあるかもしれない。そういうもんだ。
TRONの発明者でコンピュータ研究者の坂村健氏は毎日新聞で次のように語っている。
時代の風:プライバシー意識の変化=東京大教授・坂村健 毎日jp
以前このコラムで「ネット時代のプライバシーの意味は『他人に知られない』ことより『自分の情報がどう流れているかを各自が把握し管理できる』ことの方に重点が移っている。プライバシーの外部化、さらにはネット化も気にならない時代」が来る、と書いたがまさにそれが現実になりつつある。
その意味では、「出さない」ことに固執する個人情報保護は古い。人々が自らの意思でサービスと引き換えにプライバシーを晒す時代。その時代の新しいプライバシー管理が今求められているのだ。
上の本文で引用した坂村健氏の文章にある「プライバシーの外部化」、「新しいプライバシー管理」についての以前のコラムというやつを検索したのだが、同じ毎日新聞の「時代の風」というコラムなのだが、毎日のサイトからは既に削除されていて、その本文はみつからなかった。読者による毎日のサイトへのリンクを貼ったはてブやリンクサイトはあるのだが、肝心のそのリンク先が削除されていてその内容にはアクセスできない。
坂村健という筆者もわかっており、「時代の風:ソーシャルログの時代へ」というタイトルもわかっているのだが、その内容を知ることはできない。
このネットの時代にこれは、相当にストレスのたまる状況である。新聞に掲載されたコラムなので、図書館とかにいけば読むことはできるはずではあるが、ネットにリンクは残っているのにそのオリジナルが削除されているというのはかなり不自然な状況ではないだろうか。
「坂村健」と「ソーシャルログ」というワードで検索すると、ユーザによるリンクのサイトがでてくる。本体はでてこないけれど。
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2012/03/10 19:41