earlybirdさんのHeaven's Net is Wide-meshed (天網恢恢)というブログの記事で、『「戦争の世紀」を生きた米元国防長官マクナマラ氏が語る人生の教訓 ~映画「フォッグ・オブ・ウォー」を観て~』という記事を読んで感銘しました。
中東を中心に世界が自由と言論統制、民主主義と独裁・専制政治、利害対立表面化による不安定な混乱と力で抑え込まれた安定の間で激しく、大きく揺れているこの時期、もとアメリカ国防長官の考えていたこと(経験と価値観)を紹介するこのブログは、たいへん、重く、いろいろなことを考えさせられる内容であると感じました。
この世界のうねりは決して他人事ではない。自分自身の問題として考えなければならないことだと思う。世界が相互依存を深め、互いにつながりあっているこの世界においては、今起こっているこの自由を求める大変化は、絶対によそごとにしてはいけないことだと思っている。これは絶対に対岸の火事ではない。我々自身の身体に降りかかっている火の粉なのだ。今や世界はつながっている。
これを他人事だと思っていると、それは絶対に“違う”。
我々の問題だと考えなければならない。
これはとても重要な問題だと思うので、全文、引用し、リブログさせていただきたい。
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「戦争の世紀」を生きた米元国防長官マクナマラ氏が語る人生の教訓 ~映画「フォッグ・オブ・ウォー」を観て~
■はじめに2011年のアカデミー賞は大方の予想通り、「英国王のスピーチ」が作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞の4冠を達成したが、アカデミー賞に沸くこの時期に合わせて過去の受賞作品を一挙放映するテレビ局がある。NHKの衛星2チャンネルもそのひとつだ。この機会に先週深夜に放映していた「フォッグ・オブ・ウォー」(2003年の長編ドキュメンタリー部門で受賞)について記しておきたい。何故なら、これは繰り返して見る価値ある映画であり、凡百の経営指南書など及びもつかない重い内容のものだからだ。
サブタイトルが「ロバート・マクナマラ 人生11の教訓」。これは人生の最盛期を第二次世界大戦(特に太平洋戦争)、そしてベトナム戦争というアメリカが巻き込まれた2つの戦争に深く関わり続けた、20世紀でも最高峰の頭脳明晰で有能な人間の栄光と苦恨の回顧録であり、後世への遺言でもある。
以下に11の教訓を列記しておこう。■eleven lessons from the life of robert s. mcnamara ロバート・マクナマラ 人生11の教訓
#1 Enpathize with your enemy.敵に感情移入せよ
#2 Rationality will not save us.理性は頼りにならない
#3 Ther's something beyond one's self.自己を超える何かがある
#4 Maximize efficiency.効率を最大限に高めよ
#5 Proportionality should be a guideline inwar.戦争にもバランスが必要だ
#6 Get the data.データを集めよ
#7 Belief and seeing are both often wrong.信条や見聞にはしばしば間違いが
#8 Be prepared to reexamine your reasoning.論拠を再検証せよ
#9 In order to do good, you may have to engage in evil.善をなさんとして悪をなすことも
#10 Never say never.決してとは消して言うな
#11 You vcan't change human nature.人間の本質は変えられない
■印象に残ったエピソードと氏自身のコメント
#1 敵に感情移入せよ キューバ危機でソ連と核戦争の一歩寸前まで行ったときのこと、ソ連は硬軟取り混ぜた2つのメッセージをケネディに送ってきた。たまたまそのときの大統領側近にモスクワ大使だったルエリン・トンプソンがいて、フルシチョフ首相と親しく付き合っていた。トンプソンは2つのメッセージのうちで、妥協的な内容の方のものにだけ答えればいいと主戦論に傾きかけていた大統領にアドバイスしたそうだ。後でわかったことだが、あの当時フルシチョフは苦しい立場に追いやられており、「キューバを救った」というメンツさえ立てば妥協の余地があるとトンプソンは観たのだった。実際に当時のクレムリンの状況は彼の見立て通りだった。
筆者注:キューバ危機が収束できたのは、たまたま敵であるソ連の最高指導者の心の中まで見通せる境遇にいた人物が、ホワイトハウスにいただけに過ぎないというのには驚いた。
#2 理性は頼りにならない キューバ危機では実際に核戦争手前まで行った。戦争にならなかったのは運がよかっただけで、冷戦の最中の在任中に3回の戦争の危機があったといっている。後年(1992年)、氏はカストロ首相と会うことがあったが、そのとき162発の核弾頭がキューバにあったという信じされない話が本当だったことを知り、愕然とすることになる。しかもカストロ首相は一朝事あれば、全滅を覚悟の上で核戦争に突入する覚悟だった。世界が破滅するのを知りながら..
筆者注:事実としたら、これは本当に恐ろしい話だ。戦いに向かって当事国の元首が舵を切ろうとするときには、もはや理性的な判断など期待できない状況に追い込まれているからだ。それは今リビアの末期的な状況を観てもよく分かる。その後90年代以降、カーター元大統領が危機的な状況に陥った北朝鮮を訪問して、事態を収めようとしたのも、戦争へと駆り立てる独裁者の狂気の恐ろしさを知り尽くしていたからかもしれない。
#4 効率を最大限に高めよ 太平洋戦争のとき、日本本土への爆撃に超高度で飛行でき、対空砲の射程外から爆撃できる戦略爆撃機B29が投入された。当初インドから長躯して航空燃料を中国に運び、成都から北九州方面を爆撃していたが、効率を考え基地をマリアナ諸島に移してから、日本に大打撃を与えられるようになる。1945年3月の東京大空襲のころ、氏は有能かつ冷酷なカーチス・ルメイの指揮下で、日本への爆撃の作戦効率を分析・報告するのを主な任務としていた。分析の結果、1500メートルという低空からの焼夷弾攻撃が最も効率よく作戦目的を達成できることが分かり、その結果東京は一晩で130平方キロが焼け野原と化し、10万人が亡くなった。それに要したB29の損失はたったの1機。
#5 戦争にもバランスが必要だ印象的なコメント:”太平洋戦争では日本の67都市の50~90%の人々を殺したうえで、原爆まで落としたのは達成すべき目標に対してバランスがとれているとはいえないだろう。(原爆投下を命令した)トルーマンを責めるつもりはない。日米戦争は類を見ない悲惨な戦争だった。彼(ルメイ)もそして私も犯罪行為を行ったのだ。”
筆者注:アメリカの政権中枢にあった人物で、いまだかつてこれほど率直に原爆投下の非を認めた人物を知らない。恐らくこの罪の意識をずっと背負って生きてきたのだろう。
#6 データを集めよ 戦後、長年に渡る業績不振(1926~46年の間、殆ど収益が上がっていなかった)フォードは有能なスタッフに飢えていたので、大学(統計管理を専攻)の仲間と共に氏はこの会社に入社する。フォードで市場調査部を設立し、いくつかの優れた業績を上げる。そのひとつは、事故の原因を分析した結果、画期的な安全装備(安全なハンドル、ダッシュボードのパッド、シートベルト)を56年型フォードに導入して、多発していた自動車事故による死者を半減させたことなどである。そうした功績が認められ、1960年先代の社長に請われて、フォード一族以外で始めての社長に就任する。しかし、社長在任わずか5週間の後、当時のケネディに強引に請われ、国防長官に就任する。約束された世界有数の高額な報酬をふいにして、年棒2万5千ドルの国家公務員になったわけだ。
1963年ケネディの下で2年でベトナムから撤退する案を立案、しかし南ベトナムでクーデターが発生、ゴ・ジン・ジエムが失脚、これ以降アメリカの撤退&終息シナリオは崩れていく。悪いことは重なるもので、その最中ケネディ大統領が遊説中のテキサス州ダラスで暗殺されてしまう。直ちに副大統領だったリンドン・ジョンソンが大統領になり、以後ベトナム戦争は拡大の一途を辿るようになる。戦局を冷静に判断して撤退に傾いていったマクナマラ氏は、大統領と意見が合わず国防長官を辞任(というよりは解任?)する。
筆者注:平時なら特定のマーケットを対象にして、データの収集・分析で達成目標をクリアーできるが、複雑な戦場(特に何でもありのゲリラ戦では)では合理的・科学的な手法(費用対効果分析のような)を駆使して市場争奪戦を戦うようにはいかなかった、ということなのだろう。奥さんや子供までもが胃潰瘍を患ったのはこの時期だろうか。
#8 論拠を再検証せよ印象的なコメント:
”アメリカは超大国だが、その力を一方的に押しつけるべきではない。
それをわきまえていたら、ベトナム介入もなかった。
どこも支持しなかった。
日本もドイツもイギリスもフランスもだ。
同盟国も説得できないなら、我々は論拠を再検証すべきだ。”
筆者注:この率直で謙虚な教訓は今に至るまで生かされていない、果たして現在のオバマ大統領は唯一の例外となれるのだろうか。
#10 決してとは決して言うな印象的なコメント:
”ベトナム戦争の責任は大統領にある。
ケネディが生きていたら50万の大軍をベトナムに送ることはなかった。”
筆者注:これは歴史に残る証言だろう。当事者だった氏の口から、このようなはっきりとしたコメントが出たことに意義がある。氏はここで極めて明瞭に当時のジョンソン大統領の失政を指摘している。あくまでも筆者の独断と偏見ということでいわせてもらえば、この映画を観てから後年ケネディの暗殺の黒幕とジョンソンは結びついていた(あるいは主犯?)といわれても、全く驚かないようになった。それほど、当時のジョンソン大統領の戦争への傾斜度合いは酷かったことが、この映画でよくわかる。
#11 人間の本質は変えられない印象的なコメント:
”人はだれでも過ちを犯す。正直な司令官なら過ちを認める。「戦争の霧」という素晴らしい言葉がある。戦争は複雑ですべての変化を読むことはできないという意味だ。我々の判断力や理解力には限界があり、不必要な死者を出す。私は戦争を無くせると信じるほど単純ではない。人間の本質は簡単には変わらない。人間には理性があるが、理性には限界がある。”
エンディングにはその後の彼の人生の軌跡がテロップで流れる。
”彼は68~81年まで世界銀行総裁を務め、その後も貧困問題や健康対策、経済発展に尽力している。”
筆者注:「戦争の世紀」を生きた中でも、最も理性的な人間の部類に属する氏の口から発せられる「理性には限界がある」という言葉ほど重いものはない。
■終わりに筆者にとってアカデミー賞に輝くような優れた映画でも、繰り返し観たいと思うような作品はほとんどない。その反面、B級映画とされるものでは、何年に一度かは再び観たくなるものがいくつかある。サミュエル・フラー監督の「最前線物語」もそのひとつだ。あの映画に登場した古参の軍曹(アカデミー賞はとらなかったが、リー・マービンは最高の演技を見せた)の戦場での身の処し方などは、筆者の人生観にすら影響を及ぼしたものだ。
今回のこの映画もそうした類の映画のひとつになった。何年か後にまた観ようと思う。将来世界を背負って立とうとしている前途有為な若者たちにも観て欲しい。きっと得るものが多いに違いないからだ。
<参考>この映画については以下のサイトで、監督のエロール・モリス氏自身が、その製作過程についてつぶさに語っている。
『フォッグ・オブ・ウォー/マクナマラ元米国防長官の告白』/"THE FOG OF WAR"
http://www.werde.com/movie/new/fog_of_war.html
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