ソフトバンクの孫正義社長が11月10日に、民主党の情報通信議員連盟総会で日本の情報通信戦略についての講演を行ったそうです。
こちらのサイトで講演内容についての書き起こしを読むことができます。↓
ツイッター総研 「孫正義、民主党議連で吼える。「わが国の情報通信戦略について」書き起こし
さて、孫正義社長が声高に主張する「光の道」構想とはなんでしょう?それは日本全国に光ファイバー回線を引くというインフラ整備、すなわち設備構築の話です。設備構築工事の話なんですね。それも、現在すでに日本全国のうち90%のエリアをカバーしている光通信の提供エリアを100%にしなければいけないという話です。
私の疑問は、90%のエリアカバー率が100%になったら、日本がよくなる。日本の国際競争力が高まりGDPが700兆円増えるという孫社長の主張の根拠です。今、カバーできていない10%のエリアがこれからの日本の成長を妨げるというのでしょうか。
それにしても、ソフトバンクの携帯の電波状況が悪いという声をいろいろよく聞くのですが、エリアカバー率というのは100%になることが大事なのだとしたら、孫社長のなすべき責任はどこにあるのか。ソフトバンクの携帯電話の電波のエリアカバー率が全国の何%なのかはしりませんが、おそらく90%なんて全然いっていないのでは。そっちは別に問題じゃないのか。お金がないから投資できないのかもしれませんね。
日本の経済成長のためには、知識集約型の産業への転換が必要だという孫社長の意見には私は賛成です。しかしそれをどう実現したらいいかという方法論として、現在カバーできていない10%のエリアに光ファイバーを引くことがその答えだとは私は思いません。
そして日本を変えるためには教育と医療を変える必要があると孫正義社長は言います。その点では私も賛成です。資源のないこの国では人材が資源です。教育は大切です。昔からそうです。
しかしここでも、その実現方法についての考え方がずれている。学校の先生と生徒に、そして病院の先生や看護師にiPadを無料で提供すればいいと孫正義社長は言う。それで日本はよくなると彼は言う。端末を配ればいいと言っています。どうも、光ファイバーを引くのには税金は使わないといっておきながら、この端末配布は税金でやろうと言ってるみたいなんだけどなあ。あ、よく考えると孫社長はiPadを税金で配れとは言っていませんね。言い方としては、電子教科書や電子カルテの端末を無料で配れと言っています。iPadとは言ってませんでした。スライドの写真がiPadだったのでつい勘違いしました。
ところで端末を配れば国がよくなるという根拠がよくわからない。じゃあ極端に言えば日本国民全員がiPadみたいな端末を持てば、国がよくなるということでしょうか。
そんなはずはない。機械を持っているかどうかの話ではないはず。目的と手段が逆転している。機械は手段であるはず。手段である端末を使ってどんな風に教育を変えていかなくてはいけないのか。そっちの議論が先にないと。電子教科書と簡単にいっているけれど、iPadは表示端末でしかない。紙の教科書でいうと、コンテンツを表示する紙の部分です。例えば教科書の紙の材質をよくすれば教育はよくなるのか。
大切なのは教科書の中身です。電子コンテンツをつくらなければならない。これは大変な話です。今の紙の内容を電子化するだけでは意味がない。孫社長が言うように電子教科書で生徒の学習意欲を高めるためには、そもそもコンテンツをつくりなおさなければいけない。興味を自然に持たせるように。インタラクティブ性を持たせる。問題を解かせる。写真や動画を組み入れる。ネットともつなぐ。
それは今後、必要なことだと思いますが、大仕事です。電子コンテンツの制作にはお金も時間もかかります。お金だけではなくその中身を本当に役に立つものにつくらなければならない。「おもしろくてためになる」を実現するためには。端末を配って、「はい、おしまい」というような簡単な話ではない。
教科書を変えるなら、それにあわせて先生の教え方も変えなければいけない。これもまた大変なことです。1日研修をやっておしまいってな訳にはいかないでしょう。
医療についても、端末を無料で配れば医療費が下がるって、そんな訳はない。電子カルテの全国導入はたったの100億円でできますと孫正義社長は言っていますが、これは端末コストの話です。アプリがなければ端末は使えない。そのアプリのコストは誰がどうやって負担するのか。いくらかかるのか。
現在でも電子カルテを使っている病院はあります。ごく一部ですが。いろんなメーカが電子カルテのソフトを提供しています。異なるメーカのソフト同士でデータをやり取りするための互換性をどのように実現するのかという問題がある。データ形式の標準化についてはこれまでも長いことメーカ間で協議されているはずです。銀行のシステムを考えてみても、システムどうしの接続というのは簡単にはいかない。面倒くさいんで、これまでの電子カルテは全部捨てて、国が全国統一の新しい電子カルテをつくるか。プロセスを考えるとそっちの方が簡単そうですが、そうはいってもそんなに簡単でもない。こちらもやはりお金もかかるし時間もかかる。国策として税金投入してやるためには意見の統一を図らなくてはならないでしょう。
端末さえ配れば日本の医療がよくなるとは私には思えないのです。
孫正義社長の主張は、耳障りがよく自分の都合のよいことだけを言っているように思います。端末を配れば簡単に実現できるかのように。
国のため国ためと連呼していますが、自分の商売以外の領域には目が届かないのかもしれませんね。
教育にしろ、医療にしろ、専門家でもない人が端末コストの計算だけで将来ビジョンだとかいって国の方向をどうこう言うのはお門違いではないかという気がします。文部科学省や厚生労働省の専門家はどのように考えているのか聞いてみたいですね。政治主導はいいんですが、シロート議論で国家戦略決めちゃっていいのかってことです。っていうか、決める気なの???
ちなみに、ソフトバンクは2006年以降、毎年1000億円以上の経常利益を計上、2009年度には3400億円に上っています。電波状況の改善のための投資を抑えて、会社利益の創出との優先順位をここら辺で調整しているということですね。民間企業ですから利益を優先するのは当然でしょう。利用者が文句を言っても、いやなら他にいけば?ということでしょうから。そんな人が言葉巧みに天下国家を論じても、なんだかなー。
■ソフトバンクの連結業績推移
ここでとりあげた民主党での講演の前日、総務省「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」での事業者ヒアリングで孫正義社長への追及がいろいろあったそうです。
PC online 2010/11/10 「数値が信頼できない」とソフトバンク案に厳しい追及――総務省のICTタスクフォース 「光の道」最終取りまとめに向け、事業者ヒアリングを開催
鍛冶さん、sugibeyaです。
参考サイトを一つ・・・。
http://diamond.jp/articles/-/10158
しかし今回の件・・・、
マスコミ煽動⇒情弱国民踊り⇒民主へ政権交代⇒予想通り国家の危機⇒民主支持だった筈の情弱国民オロオロ踊り・・・
上記構図に「瓜二つ」と見えるのは私だけでしょうか?
投稿情報: Account Deleted | 2010/11/21 19:12
日本は今のままではいけない。産業構造も含めていろいろ変えていかなければいかない。そういう根っこの部分の主張については私は孫社長の意見に賛成です。教育と医療の分野で何とかしなければ日本の将来が危ないという点についても同感です。
でも、そういう大義名分を唱えた後の実践編の部分がなんだかおかしい。自分の都合のいい一部分だけにスポットをあてて、全体を無視している。大きな国家戦略からいきなり自分の会社の損得の話に無理やりつなげちゃってるような感じ。
ビジネスマンとしては一流だと思いますけど。経営者としても一流だと思いますけど。だけど、iPhoneをつくったのはソフトバンクではなくてアップルのスティーブ・ジョブズ。iPadをつくったのも同じくスティーブ・ジョブズ。孫社長がつくったわけではない。なんだか虎の威を借る狐といった感が漂うのです。iPhoneをソフトバンクが独占販売していることが問題なんだっていう意見もあるわけで。
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2010/11/21 22:43