株式会社ソーシャルメディア研究所の代表取締役熊坂仁美氏。ソーシャルメディア コンサルタント。何かの雑誌のFacebook特集で読んだ個人としてのプロフィールページとビジネス或いはメディア(広報)としてのサイトであるFacebookページ(ファンページ)との使い分けについての記事がかすかに記憶にありまして。
さすがその道のプロ。その言葉には説得力があるので紹介します。
私の哲学第9回 Facebookは永遠のβ版。今後の進化が全く読めないところに魅力を感じています。熊坂仁美
Facebookをマーケティングや、消費者動向の分析に使いたいと考える企業もあるようですが、Facebookはコミュニケーションツールです。これまでのインターネットメディアというのは、どちらかというと発信型で情報が一方通行でしたが、Facebookは双方向のコミュニケーションツールです。
企業と消費者が直接つながるというコミュニケーションの取り方は、双方とも経験したことがなく、正直どうしたらいいのかわらない状況です。何かコンテンツをというと、企業からはニュースリリースのような面白みのないものしか出てこない。しかし、それでは消費者の反応はまったく望めません。ソーシャルメディアにおいては、面白いもの、仲間とシェアしたいと思うものはものすごい勢いで広がります。反対につまらないものは無いに等しい。
TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを広告に使おうというマーケティング手法が取りざたされていますが。いわゆるソーシャル・メディア・マーケティングと呼ばれているやつ。そして人々がソーシャルメディアに費やす時間が拡大する今日、それらサービスのマーケティングにおける位置づけも重要性を増している、ということを私も「グランズウェル Groundswell」、「グランズウェル Groundswell ふたたび」という記事で書きましたが。
しかしそれは企業にとって簡単なことではない。従来の広告と同じつもりでソーシャルに手を出しても効果は期待できず、下手すると反感を買う羽目になって完全に逆効果になる。マイナスの宣伝になりかねない。単なる情報サイトと異なり、仲間内でのコミュニケーションの場というパーソナルな性格をもつソーシャルメディアを広告媒体として考えると、それは仲間内での宴会の中に突然CMが割り込んでくるようなことになってしまう。それは従来のマスメディアとはかなり位相の異なる場である。
とはいえ、実際、既にTwitterアカウントを利用している企業は多い。成功事例が多いとは思えないのだが。それは広告を打つのとは別次元の活動だ。日々、何かしらの情報発信をしなければならない。それは自社専用の日刊紙を発行するようなものだ。大きな労力が必要だ。しかもコンテンツに魅力がなければその労力は虚しいものになる。
「広告は、消費者とのコミュニケーションである」という言葉は昔からある。Integrated Marketing Communication という言葉もある。広告にはクチコミによる拡散を狙う戦略も以前からある。だがそうした従来からの考え方は、コミュニケーションとは言いながら、一方的な情報提供に過ぎなかった。一方的な情報提供のそのやり方についての方法論であった。
ソーシャルメディアを使ったマーケティングは違う。それは双方向だからだ。企業は、いち参加者としてソーシャルに加わらなければならない。消費者と対等な場所に立たなければならない。マスメディアを通じた一方的な情報提供、いわば上から目線の通達のようなやり方から、井戸端会議の中にいちメンバーとして参加するやり方に変わらなければならない。それはこれまでの広告とは位相の異なるコミュニケーションだ。日々の会話に直接参加するのだ。
私の哲学第9回 Facebookは永遠のβ版。今後の進化が全く読めないところに魅力を感じています。熊坂仁美
実はFacebookはとても狭い世界です。ニュースフィードに載っているのは友達の情報だけで、自分が承認している友達の数の中でニュースソースすべてが決まってしまいます。ですから、友達のマネジメントが大事になってきます。デメリットのように思えますが、Facebookは実際に会ったことのある人とのみ友達になることを推奨しています。不特定多数の人と交流したい場合には、“Facebookページ”が用意されています。また、Facebookには“いいね!ボタン”に代表される“ソーシャルプラグイン”という、一般のウェブサイトとFacebookを連携させるツールが複数用意されています。“ソーシャルプラグイン”によって、Facebookがインターネット全体を覆う形になっていくでしょう。Yahoo!、AOL、Googleなど、これまでインターネットの覇者となってきたウェブサービスの中でも、「インターネットを覆う」という発想を持っているのはFacebookだけです。
不特定多数の人と交流するためのFacebookページというもの。これが企業にとっての宣伝サイトになる。ともだち同士の交流という制約をはずされたサイトだ。本人確認のために友人のフルネームを言えなくてもいいアカウントだ。それはパーソナルな交流サイトにあって、個人ではない情報発信者として、マスメディア的な性格を持つ。相手のことを知っている/知らないという点で非対称な関係を許容するページ。一方的な情報発信の性格をもつ。だがTwitter連携やコメントやいいね!といった機能は通常のFacebookと同じなので双方向な点では変わらない。
Lady GAGAのサイトがわかりやすい。GAGAは私のことは知らないが、そのサイトにコメントすることはできる。もしかしたらリプライされるかもしれない。認知としては非対称だが双方向ではある。
このような企業向けのページの提供をmixi でも8月31日から始めた。アカウントの登録時に携帯電話による認証は不要のようだ。このページの情報はmixi にログインしたユーザ以外にも、一般のインターネット上に公開される。mixi は、Facebookの追従を始めたようだ。
新プラットフォーム提供開始 誰でも簡単に開設できるソーシャルページ「mixiページ」
そしてFacebookの話題に戻るが、ソーシャルプラグインによる他のサイトとの連携。熊坂氏は「インターネットを覆う」と表現しているが、Facebookが個人にとって、自分用にカスタマイズされたポータルサイトになるのかどうか。仮にそうなった時のポテンシャルの大きさは、確かにグーグル並みの影響があるだろう。
以前に書いた、『「私」の情報を統合する』ようなサービスなのかもしれない。
不特定多数に向けたFacebookページ(ファンページ)がどういうものなのか、熊坂氏による詳しい解説はこちら↓。
DIAMOND online: Facebookで「個人の時代」が加速する?~個人ブランディングツールとしてのファンページ、検索対策からキラーコンテンツまで、ノウハウ大公開
また、熊坂氏は別のブログの中で、FacebookとGoogle+の特徴について解説しています。人と人とのつながりを重視し、友人関係の中でのコミュニケーションを重視するFacebookに対して、お互いの承認が必要な友人という設定ではなく、Twitterのような一方的なフォローという関係であったり、友人のグループ分けを非公開にできたりと、友人関係というよりも情報収集手段としての性格が強いGoogle+と説明しています。どちらも必要なので熊坂氏は両方やっているそうです。うーん。それも大変だな。
FacebookとGoogle+(グーグルプラス)はどう違うか
おまけ
2006年の記事だが、SNSにおいて広告の難しさを、ディズニーランドで消費者金融の宣伝をするようなものだ、と例えた文章がある。記憶の片隅に残っていたのを検索で苦労して探し出したのでリンクしておく。
「ソーシャルメディアを広告媒体として考えると、それは仲間内での宴会の中に突然CMが割り込んでくるようなことになってしまう。」
記事の中でそう書きましたが、う~む。ちょっとステレオタイプな考え方かも。自分の言葉ではなく、どこかで読んだ発想のような気がする。
しかし、この例えでいうならば、宴会の中にタバコの宣伝ガールが乱入してくることがありますね。状況によりますが、キレーなねぇちゃんの登場によって盛り上がることもある。ネタとして盛り上がるってことですね。
ブログやTwitterでCMネタで盛り上がることはあります。私自身もガンダムネタ取り上げましたし。あ、ガンダムじゃなくてカップヌードルのCMか。
結局は、コンテンツ次第というのは変わりません。ただ、CMネタで盛り上がることが広告効果につながるかどうかは微妙な気がします。肝心な宣伝対象の商品が印象に残っているのかどうかという点で。
ネタとして盛り上がるのは主に表現のインプレッションが話題になるのだと思う。商品自体が話題になるなら広告としてはいいんだけれど。
ソーシャルメディアの特徴はやはりコミュニケーションにあって、マーケティングの視点からは消費者との間の長期的な関係構築の手段としては有効であろう。ロイヤリティの高い支持基盤をつくるという意味で。広告媒体として捉えるのは少し違う気がする。
個人の場合と同様、企業にとってもソーシャルな世界で関係を維持継続するためには大きな努力が必要だ。しかもそれは広告代理店にまる投げのできない仕事であるように思う。
いや、できない訳ではないかもしれないが、やるべきではないというか。長万部町のキャラクター「まんべくん」のTwitterは外部に委託していた。ブランドイメージの構築は広告代理店の仕事ですが、ソーシャルメディアという発信量の多い場所でやるには無理があるのではないかな。同じことばかりつぶやく訳にもいかないので、どうしても体臭というか、発信者の個人的な色がでてしまうと思うのです。
ま、お仕事としてやるという意味では本当の中の人でも代理店でも同じなのかもしれませんが。青臭いかもしれないが、ソーシャルメディアでマーケティングをするのならそのブランドに対する本物の情熱を持っていなければうまくいかないと思う。
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2011/09/04 09:19
話は脱線するけれど、宴会に乗り込んでくるキャンペーンガール。タバコ以外の宣伝を見たことがない気がする。ビールとかお菓子とか車とか生命保険の宣伝とかは見たことない。
なんでだろう?
コストが高いからかな?消費者ひとりあたりの宣伝コストとしては直感的に高いような気がする。
キャンギャルには台本覚えさせなきゃいけないし、酔っ払いの中に放り込むのだから、人あしらいのうまい子じゃないとトラブルのもとになりそうだ。時間給はちょいと高めになるだろう。
この手のキャンギャルには数人ごとに現場監督(ディレクタ)が現場で張り付くのが通常だ。その分の人件費が加算される。人材派遣会社の取り分も当然かかる。
ルーチンワークとは異なり、短期のイベントのために人をかりだすイベントの仕事には、待機時間の分の人件費をカバーするため、大きなコストがかかるはず。
衣装を借りたり、お店と交渉したりと諸々の作業もあるだろう。
一方、お店に乗り込むキャンギャルは何人くらいの消費者と接触できるのか。仮に10人の宴会の場で10分宣伝するとする。1時間で60人。仮に午後5時から9時まで宣伝したとして、4時間で240人。9時以降はお客ができあがってて宣伝効果薄いし、トラブル発生率が高くなるだろうという推測だ。
消費者ひとりあたりの宣伝費をバナー広告なみの1円とすると1日あたりの宣伝費は240円。ありえない。ひとりあたり100円の宣伝費をかけたとして2万4千円。よほど大規模に長期にやらない限り、この金額でキャンギャルはやとえないだろう。
消費者ひとりあたり1,000円でキャンギャル1日あたり24万円なら広告代理店側はペイするだろう。実際には100円から1,000円の中間あたりだろう。
消費者ひとりあたりの広告コストとして考えるとかなり高いものになる。
キャンペーン施策のひとつの象徴として行われていると見做すべきだろうな。コストはともかく。
タバコ以外ではみかけない訳だ。
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2011/09/08 06:48