前回、人間そっくりなロボットについての記事を書きました。
その中で、このロボットの使い道についてあんまり実用的じゃない気がする、という風に書きました。何故にヒト型?無駄に高度な技術ぢゃね?みたいな。その点についてコメントもいただきましていろいろ考えたんですね。
その結果、このHRP-4Cという存在は、どうも、ビジネスと研究開発とアートと、いろんな分野にまたがった存在であるがゆえにその位置づけが明確じゃなくて、そのはっきりしないボーダーラインにあるがゆえにモヤモヤするんじゃないかと思ったのであります。
踊るロボットの動画 美少女ロボ「HRP-4C 未夢」が踊り、歌う デジタルコンテンツEXPO2010より
ロボットというのは現在、既に産業技術です。自動車工場とかでは製造機械としてロボットアームが自動車をつくっていて、それは製造効率を求められる、ビジネス領域の技術な訳です。それは費用対効果をキビシク求められる世界。
ところがこのHRP-4Cは、そのような製品として創られたものではない。創ったのは日本の産業技術総合研究所というところで、研究成果として披露されたもの。研究開発というのは直接的に費用対効果を求められないものであったりする。
近頃ではそうでもなくて、ゆくゆくは儲けにつながらなくてはなんのための研究か?という、ビジネスへの関連も求められるようでありますが。その点では研究開発も、より純粋に知恵や知識を求めるための基礎研究と、ビジネスへの応用を前提とした、いわゆる商品化を前提とする役に立つ技術の開発を目指す応用研究とのふたつに分けられています。研究の分野でもビジネスになるかならないかの尺度が存在し、境界線が曖昧になっている。
そしてもうひとつ、アートという訳のわからない分野が存在する。基本的にはアートとは金儲けの手段ではない。アートも決してビジネスと無縁ではないし、むしろ深く関わっているといった方が現実的かもしれないが、それでもアートとビジネスとはイコールではない。イコールではないがしかしクロスオーバーしている領域であるには違いない。
工芸品なんてもんはまさにそのクロスーバーした領域にあるもんだろうし、ポップカルチャーと呼ばれているものもそこ。HRP-4Cがアートかっていうと、多分、そんなことはないんだろうけど、私はそっちに位置づける手もありかな、とかはちょっと思う。アーティストがツールとしてHRP-4Cを使うならば、その瞬間にアートになる。ま、それいっちゃったら何だってアートになりうるんだけど。なんていうか、オモチャとしては面白いんじゃないかと思った次第。
で、このHRP-4Cというロボットは、このようなカネを追求するビジネスと、知を追及する研究開発と、美を追求するアートと、それぞれの領域にまたがっていて、それゆえにどうやって使うのこれ?っていう、実用性に対する疑問が湧いてきちゃうのかなー、と思うのです。
実用性を考えると、二足歩行である必要性はあまりない。四足の方がずっと安定する。平面というものは3点あれば確定する。カメラとかの三脚が3本足なのには理由がある。テーブルみたいな4本足は足の長さのバランスが悪かったり床がちゃんとした平面でなかったりするとがたつく。3本足ならそれはない。
で、四足歩行の場合は、3本の足でバランスをとって安定させた上で残りの1本の足を自由に動かせる。前に一歩踏み出した上で重心移動させることで安定歩行が実現する。いかに四足歩行が足場の悪い場所で安定かについてこんなビデオがある。
でも、このHRP-4Cの目指すのは二足歩行であって、実用性ではない。
HRP-4Cが歌って踊るシーンを見て、アメリカの自動お掃除ロボットの会社アイロボット社のCEOが、
「ロボットがヒト型である必要ってあるのかな?」みたいなこと言ったらしく、それに対して日本の2チャンの人たちがいろいろとコメントをしている。実用性よりも人間に似てるかどうかが大事だ、とか、アトム、マジンガーZ、ガンダム、パトレイバーと、日本の軸はぶれてないからこれでいーんだ、とか、いろいろな意見があって面白い。まあ、いろんな意見があるってことはいいことじゃないかと私は思う。
ワラ速 米社が日本企業の「人型ロボット」をチクリ 「うちは実用性重視」
また、ロボット開発においては「不気味の谷」という言葉があるそうだ。ロボットがあまりにも人間に近づきすぎるとそれを不気味に感じて、拒絶反応がでるという。
この点については、HRP-4Cは思いっきりその不気味の谷に踏み込んでる訳で。とはいえ、顔は人間に似せているが、ボディはロボロボしてるんで多少安全策はとっている訳だが。ところが、この顔を採用したことで大きな反響を呼んだらしい。注目を集めるという意味ではこの顔にして大正解だったそうなのだ。逆に関心が外見に集中してしまったことについて、開発者の中には困惑している人もいる。外見のインパクトはそれほど大きいんだ。
HRP-4Cの開発者複数に対するロングインタビューがあったんだが、これ、とても面白かった。二足歩行は開発者にとって大事なポイントだが、実用性は目指してない。とはいえ、実用性を目指すべきだという思いもある、とか。実用にならないロボットの使い方としてはファッションモデルとか広告とかエンターテインメントに活かすことを考えてるんだとか。ひねりのある動きをさせるには、関節が足りないけど、それは時間とカネの問題で諦めた部分があるんだとか。創った人の声は面白いな。製品化して販売する動きもあるんだそうだ。この顔にするかどうかは別にして。
産総研の女性型ロボ「HRP-4C」開発者座談会(その1) ~今の反応は予想外!? 開発裏話を聞く
ただしこのインタビュー、2009年7月のものなんで、踊ったり歌ったりする1年以上も前のインタビューです。この間には、HRP-4Cに初音ミクの仮装させて歌わせたりとかいろいろやってるからね。今回のダンスの披露にあわせては顔の表情とか首の動きとかをさらに人間に似せたりとか。
普通に2本足で歩くことって、大変なことなんだね。人間は重心移動とかバランスとか計算せずに歩いてるもんね。
このロボット、開発費は約2億円かかってて、販売価格は素のボディのみで2千万円程度を目指してるんだそうだ。美空ひばりのコピーロボットにして公演させるってのも、まんざらでもないアイデアなんじゃないか。ペイライン的にも。
開発費についてはこちらの記事から
産総研、女性型ヒューマノイドロボット「HRP-4C」を発表 ~ファッションショーにも登場予定
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/03/16/1665.html
このHRP-4C、手の動きについては親指以外の4本の指は4本同時にしか曲げられないらしい。モーターとか制御の複雑さとかその辺の理由なんだろうと思うけど。ダンスにおいては手の表現力がかなり制限されている。常に手のひらを広げた状態で踊るのでイマイチなところは仕方ないね。指先の表現力って、それなりに大事だから。腰をひねるようなツイストの動きもできなさそうだからダンスとしての制限事項はかなりあったんだろうと想像。振り付けはTRFのSAMさんだそうだが。
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2010/12/26 14:30
こんにちは。
この辺のことになると、古いですが、ノーバート・ウィナーの「人間機械論」をすぐ思い出してしまいます。
それは、機械が限りなく人間に近づいていくこと、人間が機械のモデルとして限りなく解析されること、この両方の近づきを延々行っていくこと、そのことだけで、意義がある、価値があるという考え方です。
この場合、人間、をさらに美少女、で
機械が限りなく美少女に近づいていくこと、美少女が機械のモデルとして限りなく解析されること、この両方の作用は、無駄なことを含んでいようが、意義はあるという考え方になります。
「人間機械論」の時代は、脳というパーツでコンピュータが生まれ、世界初の真空管のコンピュータが誕生した。体というパーツでフィードバックシステムを応用した産業用ロボットが生まれた。
今はかなり進んでいますから、美少女という価値をもついたものが…限りなく美少女に近いロボット、ロボットのために美少女の要素が解析されてもいいんだと思います。
とにかく科学であれば、途中でやめるというのがいちばんダメで、限りなく続けていって欲しいと思います。
あいかわらずの、原則論ですが…、こんなことの研究を続けていくと、インターネットの方まで影響を与え、検索エンジンでも、美少女の思考に近い検索エンジンなんか誕生したら、面白いですね。何を検索しても、なんとなく美的なものを優先してひらってくる。政治色の強いものははじきとばす。みたいな。
あいかわらずの夢物語ですが…www
投稿情報: Marketing0 | 2010/12/26 15:34
7さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
美少女型検索ですか。私はちょっとイヤかも。なんか軽薄っぽそうで。(偏見かもしれません。)
しかし、検索結果に対する表示順のランクづけというか、レーティングの問題だとしたら、ロボット開発なんかよりはよっぽど簡単でよっぽどリアルなことかもしれません。
グーグルが集めている検索ワードやそのクリック結果のデータと、それをしたユーザの属性(性別および年代)がわかれば統計処理はおそらく可能なので。現在ですらグーグルのレーティングの指標はおそらくすごいたくさんの評価方法を集計していると思うので。
属性が特定さえできれば、指標については論理的に定義しなくても統計処理だけでできるかも。
ただし、それは少女的検索ではあっても「美少女」ではないかも。美少女はちょっと難しい。
でももしもできたら面白そうですね。美少女的検索とそうではない少女的検索。そこに違いはありそうですもんね。
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2010/12/26 17:39
美少女ロボットですか、
私などは、「人形」テーマでマンガを描いていた大野安之さん
http://www.ne.jp/asahi/yasumaro/oono/
の
「異形の街」「黄金の髪の娘」
「超鉄大帝テスラ」(リラダンの人形が登場する!)
などですかね。
初音ミクなんかは、時祭イヴ(「メガゾーン23」なるアニメに出てくるタレント(AIキャラであることは秘密))が、そこまで来てるなという感じです。
うーん、ノーバート・ウィナーの『人間機械論』第二版は読んだんだけど、今は昆虫のさなぎの中の変態のことくらいしか思い出せません。ありゃりゃ。
それと、ラ・メトリの『人間機械論』は読んでいません。
まあともかく、この手の話題をリードしてくれていた、インプレスのRobot Watchが去年終了してしまったことが惜しまれます。
http://robot.watch.impress.co.jp/
まあ、キーワードは蒔いておきました。
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投稿情報: ルート134 | 2010/12/26 22:15
ううう。大野安之さん、知りません。ノーバート・ウィナーも知りません。ごめんなさい。ううう。SFファンのつもりなんだけど・・・。
そしてあらら。Robot Watchって終わってしまったんですか?今回、ふたつほどリンク貼らしてもらったんですけど。終わってもうたんか?
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2010/12/27 00:23
いや、それにしても惜しいな。Robot Watchの終了。今回、引用したインタビュー記事にしても、とっても濃ゆい内容で、すんごく面白かったのに。濃ゆいよとっても。とても面白い。
投稿情報: 鍛冶 哲也 | 2010/12/27 00:59