将軍様がお隠れになった隣国について、私は不安を感じている。
かの国は経済的には貧しい国だ。言論の自由も許されていない。いや。強い強い言論統制下にあるといった方がいいだろう。現在の世界の中ではもっとも強い監視社会であるといってよいだろう。下手なことはいえない。誰が聞いているかわからない。それは戦時下の日本の様でもあるだろうか。「贅沢は敵だ」とされ、意見の多様性は全て否定された社会。竹やりで闘い一億玉砕と叫ぶ世の中。
私は異常だと思う。それがあたり前のようにまかり通っていればそれがあたり前になるのだろうか。それはこの国で過去に実際にあったことだ。
だがそれはやはり異様な緊張を生むのではないだろうか。私にとってはそれは想像でしかないが。しかしそれは強力な情報統制あってのことだ。戦後の日本はアメリカの豊かさに完膚なきまでに白旗をあげた。チョコレートの甘さに現実を知り、自分たちの過去を全否定するに至った。
かの国においても他国の現実をもし知ったなら、自分たちの今を肯定し続けることは恐らくできないだろう。改革を求める声が地の底から吹き上がることだろう。目の玉が飛び出すほど高額な戦闘機よりも食料をよこせという声があがるはずだ。
それは国の崩壊を意味する。
今は世界中のどの国もそれは望んではいない。崩壊の後のカオスを制御するプランをどこも持ってはいない。まるで予想のつかない状態なのだそれは。あまりに極端で想像を絶する。あまりにもあまりにも不自然な状態なのだ。あそこは。
それをなんとか形にしているのが強力な軍事政権。それが維持できるかどうかの瀬戸際が今。
今のところは息子を前面に押し出すことで政権の引き継ぎは達成されそうだという予測が多い。それはとりあえず世界にとってよい展開だ。今、崩壊されては困るのだ。今、それが起こっても誰も得をしない。その点で、今、世界は利害が一致している。
だが、現時点でその息子は先代の恐怖政治を身につけてはいない。その他人を従わせる恐怖を身にまとってはいない。恐怖の実績がないからだ。逆らうとどうなるかの事例がないからだ。それでも国内ではとりあえず彼は立てられる。彼をつぶして自分が前に出ようという人物がいないからだ。そこまでの力を持った人物がいないのだろう。ナンバー2の権力を分散させてきた、それは先代の知恵だ。自分を守るための方策だったのかもしれないけれど。それは幸いした。けれどもそれは力をもったナンバー2が複数存在するということでもある。
とりあえず息子はトップに立つが、誰もが彼に問答無用で従う訳ではない。今はまだ表面だけの服従だ。実効的に中を回すのはナンバー2の連中だ。根回しをしてお膳立てを整えて、命令だけはトップとしての息子から出される。どっかの国の天皇みたいなもんだな。命令はするけれど実権はない。自分の意見は通らない。回りがお膳立てをしなければ、実質的には動かない。恐らくそんな風にしばらく進むだろう。摂政関白みたいな感じかな。
私が恐れるのは、そうした政権運用の中での、ナンバー2同士の間での陰の政権争いだ。恐らく明確なナンバー2はいない。強力なナンバー2をつくらないように先代が配慮したからだ。ナンバー2は複数存在する。そいつらが勢力争いを始める。それは表からは見えない争いだ。誰が息子に自分の言うことを聞かせられるか。息子が誰のことを最も信頼するか。逆にいうと誰が最も息子をうまく操れるか。表舞台の裏側での争いが繰り広げられるのではないか。「この国は今、こんなにやばい。すぐにもこうしなければいけない。そのためのお膳立ては既に俺が整えてある。あとはおまえがこれをトップの名の下に命じればいいだけだ。」そんなことを言うヤツらが何人も息子の周りに擦り寄ってくるだろう。
そしてそんなナンバー2同士の争いが始まれば、きっと、「あいつは自分の利益のためにおまえをだまそうとしているんだ」なんていう、ネガティブ・キャンペーンが始まるのだ。裏舞台で。息子は人間不信になるだろうね。いや、問題は政治のパワーバランスが全て表舞台から見えない裏側に隠れてしまうこと。誰が本当の権力者なのか、そいつが何を考え、何をしようとしているのか、外からは全く見えなくなる。
さらには、ナンバー2同士の争いはそいつの地位や役職には関係がないことから、その力を誇示するためには、最もでかい政策、最も派手なことを息子にやらせたやつが本当の実力者ということになる。それは政策の派手さを競う権力闘争が始まることを意味する。政策の内容や重要性ではなく、派手かどうかが重要なのだ。軍事政権下での派手な政策って何なんだろう?
なんだかいやな感じがするぞ。 I have a bad feeling about this.
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